地方創生ICO

岡山県西粟倉村は補助金ではない新たな資金獲得を模索する中で、2017年秋から構想を練ってきた。計画では、民間事業体で構成する一般社団法人「西粟倉村トークンエコノミー協会」を設立。協会が西粟倉村と連携して独自コイン「Nishi Awakura Coin(NAC)」を発行し、全体の運営や資金運用などを担う。



岡山・西粟倉村 投資家から事業費調達 仮想通貨導入へ 運用担う協会設立を計画

2018年6月15日、山陽新聞

岡山県西粟倉村は、仮想通貨を使った資金集めの手法「新規仮想通貨公開(イニシャル・コイン・オファリング=ICO)」の実施を決めた。独自のコインをインターネット上に発行し、興味を持った投資家が購入することで資金を得て、西粟倉村が行う事業費に充てる。開始時期などは未定だが、西粟倉村によると、全国の自治体で初めての導入という。

西粟倉村は補助金ではない新たな資金獲得を模索する中で、2017年秋から構想を練ってきた。計画では、民間事業体で構成する一般社団法人「西粟倉村トークンエコノミー協会」を設立。協会が西粟倉村と連携して独自コイン「Nishi Awakura Coin(NAC)」を発行し、全体の運営や資金運用などを担う。

NACは、連携する仮想通貨交換事業者を介して、ICOで使用が多い通貨「イーサリアム」で投資家に買ってもらい、日本円に換金する。資金は起業家支援をはじめ、西粟倉村、企業、大学・研究機関が協力して西粟倉村内で行うプロジェクトなど地方創生に関連した事業に充てる。

NACを持つ投資家には、投票権を付与するのも特徴。構想中の事業・プロジェクトに投票でき、得票数を資金分配などに反映させる。投資家には村づくりなどに継続的に興味を持ってもらう狙いもある。事業で生まれた商品やサービスはNACで購入・利用できるほか、来村時に使える地域通貨の役割も想定する。

西粟倉村によると、地方創生に関する国の交付金が2020年度に終了する予定で、2021年度までのICO実施を目指す。現在、日本仮想通貨交換業協会がICOに関する自主規制ルールを作っており、整い次第、実施に向けた取り組みを本格化させる。

西粟倉村産業観光課は「西粟倉村を成功事例にして、全国の自治体に波及させていきたい。そのためにもNACの価値を高められるよう、体制づくりを進める」としている。

岡山・西粟倉村がICO導入検討 仮想通貨で資金獲得 企業と連携2021年度までの開始目標

2017年12月2日、山陽新聞

岡山県西粟倉村は仮想通貨を使った資金集めの手法「新規仮想通貨公開(イニシャル・コイン・オファリング=ICO)」の導入を検討している。世界の投資家から迅速に資金調達できるのが特徴で、集まったお金は起業家支援などの事業に充てる。2017年12月2日には西粟倉村職員と関係企業の担当者が課題を洗い出し、今後の方針を話し合う。西粟倉村によると、自治体では先駆的な取り組み。

一方で、人口約1500人の西粟倉村にどれだけ投資が集まるかは不透明。加えて、日本国内にはICO自体を規定した法律がないなど、法整備の遅れからトラブルにつながる恐れを指摘する意見もある。西粟倉村は今後、問題点を検討しながら、2021年度までの開始を目指して企業と連携し、体制づくりを進める方針だ。

西粟倉村によると、西粟倉村など全国10市町村が共同で行ってきた地方の起業家を増やす取り組みに関して、財源としている国の地方創生推進交付金が2020年度に終了予定。新たな資金を模索する中でICOに注目した。

計画では、西粟倉村が発行した独自の仮想通貨「西粟倉コイン(仮称)」を、西粟倉村に関心を持つ投資家に「ビットコイン」「イーサリアム」といった流通量の多い仮想通貨で購入してもらう。西粟倉村は、集まったビットコインなどを取引所で日本円に換金し起業家支援など移住・定住関連事業に使う。

投資家には「西粟倉コイン」で、西粟倉村独自の特別な商品・サービスなどの提供を検討しているほか、来村して物品購入に使ってもらうことも期待している。

西粟倉村内で起業家育成などを手掛けるベンチャーの「エーゼロ」が西粟倉村のコンサルタントを担当。コイン発行や取引システムなどは「chaintope(チェーントープ)」(福岡県)、コインによる商品購入の仕組みは電子商取引サイトの構築などを展開する「村式」(神奈川県)のベンチャーがそれぞれ担う。

西粟倉村産業観光課は「資金獲得にはコインの魅力をどれだけ高められるかが課題。システムの問題点についても、きちんと検討し対処したい」としている。

仮想通貨問題に詳しい斎藤創弁護士は「仮想通貨交換業の登録などを定めた改正資金決済法だけでなく、地方自治法に抵触する部分はないかなど注意して進める必要がある」と指摘する。

「仮想通貨の現在と未来」西部忠さん 地域活性化の手段に 企業、自治体の発行例も

2018年11月28日、秋田魁新報

秋田さきがけ政経懇話会の11月例会が2018年11月27日、秋田市のホテルメトロポリタン秋田で開かれ、専修大学経済学部教授の西部忠さん(56)が「仮想通貨の現在と未来」と題して講演した。ビットコインなどに代表される仮想通貨は現在、世界で約2000種類が流通しているとし「仮想通貨を用いて地域活性化を目指す自治体も現れてきた」などと話した。2018年11月26日には大館市のホテルクラウンパレス秋北で開かれた秋田さきがけ県北政経懇話会で講演した。

西部さんは中央銀行などが発行し、市場に流通している硬貨や紙幣は法定通貨として信頼性が高い一方、麻薬や売春、武器の売買など違法取引による「地下経済」を作り出していると指摘。仮想通貨については、ネットワーク上で送金記録を一元管理できる中核技術「ブロックチェーン」が活用され、「地下経済はなくなる」との認識を示した。その上で「たんす預金もなくなり、景気浮揚につながる」として、仮想通貨やキャッシュレス決済の普及の意義を強調した。

クレジットカードやデビットカードなどの電子マネーは、預託した現金を使う仕組みのため、使用機会が1回に限られる商品券と似ていると説明。一方、仮想通貨は法定通貨と同様に人から人に流通する点で異なるとした。

膨大にある仮想通貨のうち、近年、急速に普及したビットコインについては、ネットワーク上で一定期間に一定量の仮想通貨が発行される仕組みと解説。その上で「仮想通貨の普及には貢献したが、投機的に扱われ、値動きが激しく貨幣価値が安定しないため、日常的に使うにはリスクが高すぎる」と述べた。

企業や自治体が仮想通貨を発行して資金調達する手法(ICO)を用いて、地域活性化につなげようとしている取り組みも紹介。

地方創生を目的としたICOを全国の自治体で初めて、岡山県西粟倉村が計画中であるとしたほか、2020年東京五輪を見据え、メガバンクや地方銀行が仮想通貨の普及を目指している事例も提示した。

西部さんは「かつて流行した地域通貨は管理と運営にコストがかかり長続きしなかった。仮想通貨は電子的な技術を使うことでコストが削減され、管理も楽」と説明。「仮想通貨と地域通貨の良いところを組み合わせた『地域仮想通貨』をつくる動きは、いずれ広域化するだろう。鉄道沿線で利用できたりする例が今後生まれてくる」との見方を示した。

にしべ・まこと

1962年愛知県生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。北海道大学大学院経済学研究科教授などを経て、2017年から現職。専門は進化経済学。

活性化へ自治体が独自コイン 功罪含め、注目の仮想通貨

2018年12月21日、信濃毎日新聞

交換所から仮想通貨が大量流出する問題が相次いだ2018年。セキュリティーの危うさが目立ち、詐欺的な行為に悪用される恐れが指摘されてきた。一方で、自治体が活性化のために独自のコインを生み出そうとする新しい動きも。仮想通貨を巡る話題は、今後も続きそうだ。

面積の約95%を森林が占める、人口約1500人の岡山県西粟倉村。2018年6月、「新規仮想通貨公開(ICO)」という資金調達方法を採用し、日本で初めて自治体独自の仮想通貨「Nishi Awakura Coin」を発行する計画を公表した。

ICOは、仮想通貨の発展に伴って広まりつつある資金調達手段だ。企業や組織が新しい仮想通貨を発行。投資家が投資目的に購入し、その費用が事業資金に回る。

株式会社の株を購入することで投資する仕組みに似ているが、ICOは法律上のルールが定まらないまま、拡大した。金融庁は「詐欺的な事案が多い」として注意を呼び掛け、インターネット業界でもICO関連の広告を規制する動きが出ていた。

そんな逆風の中、ICOに挑戦する西粟倉村。担当者は「自治体が発行するという信頼感があるはず。そこが強み」と話す。発行スケジュールなどは、仮想通貨の業界団体が策定中の自主規制ルールがしっかり定まってから公表するという。

担当者は、ICOを採用した理由を「地方の村が地域を活性化しようという取り組みに、全国から一緒に参加してもらいたい」と説明。集めた資金は地域のベンチャー企業への出資や移住促進事業などに充てたいと考えているが、コイン購入者も「投票」という形で、使途の決定に関わることができる。

一時200万円を超えたビットコイン価格は、2018年12月初旬時点で50万円を下回った。浮き沈みが激しい仮想通貨だが「地方活性化」という新たな利用の可能性も示された。功罪を含め、2019年以降も動きが注目される。

仮想通貨流出事件

2018年1月、仮想通貨交換業者コインチェックが不正アクセスを受け、約580億円相当の仮想通貨「NEM(ネム)」が外部流出。2018年9月には別の業者が扱う交換サイト「Zaif(ザイフ)」からも約70億円相当の通貨が流出した。

自治体、自力の資金調達へ 仮想通貨技術活用 規制の壁、それでも可能性 岡山や長崎で計画

2019年2月28日、信濃毎日新聞

仮想通貨技術を使った新たな資金調達手法「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」の実現を目指す自治体が増えている。すでに岡山県西粟倉村と長崎県平戸市が実施を表明。関係者は、自力の資金調達手段を持つことで、国に依存しがちな地方の姿を変える可能性もあると期待する。だが政府は仮想通貨全般への規制強化に乗り出しており、計画は試練に直面している。

「コインチェックの事件の前後で状況が一変した」。自治体によるICOを技術面から支援する福岡県飯塚市のベンチャー企業「チェーントープ」の正田英樹社長(46)は表情を曇らせた。

2018年1月、仮想通貨交換業コインチェックから580億円相当の仮想通貨が流出。この事件をきっかけに金融庁は産業育成的な姿勢から規制強化に転換した。チェーントープ関係者によると、金融庁担当者から当初は好感触を得ていたが「事件後に会うと意気消沈していた」という。

海外のベンチャー企業の間で広まったICO自体にも問題が噴出していた。低コスト、短時間で資金調達ができる画期的な仕組みとされた一方、投資家保護のルールづくりは後手に回り「詐欺案件が多い無法地帯」(業界関係者)になっていた。金融庁は今後、金融商品取引法の改正などを通じてICOの規制も厳格化する方針だ。

信念

それでも「自治体が地域社会のために使うなら良い仕組みだ」と正田社長の信念は揺るがない。日本の国内自治体で初めてICO構想を発表した岡山県西粟倉村は、2021年までに実施する方針に変更はないと強調する。

産業観光課の萩原勇一課長補佐(47)は「結局、国の補助金は政府がつくったメニューに従わないといけない。柔軟に使える自主財源が必要だ」と話す。

人口約1500人。林業を中心に「100年の森林(もり)構想」を掲げて独自の地域づくりを推進してきた。近年は都会の若者らが移住してベンチャー企業を立ち上げる例が増えた。彼らと連携して大胆な地方創生策を実施したい。ICOはそのための有力な手段となるという。

長崎県平戸市は2018年11月に方針を発表した。文化交流課の植野健治係長(43)は「世界遺産に登録された平戸市の観光資源を守ることが目的だ」と力説する。平戸市内には潜伏キリシタンゆかりの史跡があり、維持管理や情報発信の費用に充てる。カトリック信者は世界に10億人以上。「ICOなら世界中から資金を集められる」

期待

自治体ICOへの期待は高く「2自治体以外にも実施を探る動きがある」(正田社長)。

金融庁が認定している業界団体「日本仮想通貨交換業協会」は、ICOの自主規制ルールを策定中だ。自治体が詐欺に加担するとは考えにくく、投資家保護のルールが明確になれば、自治体側の追い風になることも予想される。

一方で仮想通貨に詳しい東京都内の弁護士は「複数の自治体から相談を受けたが、満足できる内容はなかった」と明かす。そもそも世界の投資家から資金を集められるような魅力的なプロジェクトを自治体が打ち出せるのか。「ICOなら簡単に資金が集まると思うのは間違いだ」。ハードルは規制の問題以外にも多いと指摘した。

公開プロジェクトに投資

ICO

仮想通貨技術を使った新たな資金調達の手法。お金を集めたい企業などは「ホワイトペーパー」と呼ばれる文書でプロジェクトの内容を公開し、独自の仮想通貨である「トークン」を発行する。投資家はビットコインなど既存の仮想通貨でトークンを購入、企業側は入手したビットコインなどをドルや円に換えて事業に使う。トークンは発行企業が提供するサービスなどで使えるほか、仮想通貨交換所に「上場」することで、値上がり益も期待できるとされる。

仮想通貨流出問題/独自コインで地域振興も

2018年12月25日、長崎新聞

交換所から仮想通貨が大量流出する問題が相次いだ2018年。セキュリティーの危うさが目立ち、詐欺的な行為に悪用される恐れが指摘されてきた。一方で、自治体が活性化のために独自のコインを生み出そうとする新しい動きも。仮想通貨を巡る話題は、今後も続きそうだ。

面積の約95%を森林が占める、人口約1500人の岡山県西粟倉村。2018年6月、「新規仮想通貨公開(ICO)」という資金調達方法を採用し、日本で初めて自治体独自の仮想通貨「Nishi Awakura Coin」を発行する計画を公表した。

ICOは、仮想通貨の発展に伴って広まりつつある資金調達手段だ。企業や組織が新しい仮想通貨を発行。投資家が投資目的に購入し、その費用が事業資金に回る。

株式会社の株を購入することで投資する仕組みに似ているが、ICOは法律上のルールが定まらないまま、拡大した。金融庁は「詐欺的な事案が多い」として注意を呼び掛け、インターネット業界でもICO関連の広告を規制する動きが出ていた。そんな逆風の中、ICOに挑戦する西粟倉村。担当者は「自治体が発行するという信頼感があるはず。そこが強み」と話す。発行スケジュールなどは、仮想通貨の業界団体が策定中の自主規制ルールがしっかり定まってから公表するという。

担当者は、ICOを採用した理由を「地方の村が地域を活性化しようという取り組みに、全国から一緒に参加してもらいたい」と説明。集めた資金は地域のベンチャー企業への出資や移住促進事業などに充てたいと考えているが、コイン購入者も「投票」という形で、使途の決定に関わることができる。

一時200万円を超えたビットコイン価格は、2018年12月初旬時点で50万円を下回った。浮き沈みが激しい仮想通貨だが「地方活性化」という新たな利用の可能性も示された。功罪を含め、2019年以降も動きが注目される。

放置間伐材 地域通貨に 経済活性化へ岡山・西粟倉村事業 2015年春以降 温泉施設の燃料に

2014年10月22日、山陽新聞

岡山県西粟倉村は、これまで山に切り捨てられていた間伐材を地域通貨と交換する事業「鬼の搬出プロジェクト」に取り組んでいる。西粟倉村営の温泉3施設で2015年3月以降、順次導入するまきボイラーの燃料に充てる。エネルギー資源を事業の対象エリアにしている西粟倉村と美作市の森林から賄うとともに、西粟倉村と美作市の両市村内での買い物を促して地域経済の活性化も目指す。

西粟倉村内に拠点を置き、再生可能エネルギー導入の支援を行う民間企業「村楽エナジー」(井筒耕平代表)と連携した事業。井筒さんは「鬼の搬出プロジェクト」を2013年から美作市で始めており、その仕組みを受け継いで応用した。

今回の事業では間伐材1トン当たり6000円を支払い、うち3000円分は村と美作市内にある商店やガソリンスタンドなど協力35店舗で使える地域通貨「オニ券」と交換。間伐材は村楽エナジーがまきにして、温泉の管理委託業者に卸す。

まきボイラーは西粟倉村が2015年3月に「湯~とぴあ黄金泉」(西粟倉村影石)に導入。その後も営業再開を目指す「元湯」(西粟倉村影石)、国民宿舎「あわくら荘」(西粟倉村影石)へ2016年度までに整備する。

森林が村面積の95%を占める西粟倉村は、年間約200ヘクタールを間伐している。しかし、搬出に必要な作業道がなかったり、コストが木材売価と釣り合わなかったりし、約160ヘクタールで間伐材がそのまま山に放置されているという。

間伐材の出荷には登録が必要で、対象者は西粟倉村か美作市の在住・在勤者に限定。西粟倉村内の森林組合で受け取る。事業開始の2014年9月以降、22人が約60トンを持ち込んでいる。

2014年度は西粟倉村が実施している間伐分も含めて500トンを受け入れ、2015年度以降は年間1000トンに倍増させる予定。西粟倉村産業観光課は「森林資源を活用して地域経済の活性化を図ることで、人口減少を防ぎたい」としている。